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2006.12.02

四国、よいとこ 1025 三分間で読める小説。「十九歳の恋」。

 二〇〇六年十二月ニ日。

 今夜は徳島駅前のビジネスホテルです。

 三分間で読める小説の第二弾です。


    小説 十九歳の恋


 その女の子は、突然、僕の前に現れました。
 ほっそりした知的な顔立ちで、二重まぶたで、小さなくちびる。そして、腰のあたりまでの長い黒髪。
 「天は、かくも美しい造形物をつくりたもうたか」。
 優しいけれど、自分の意思の明確な話し方。……。

 僕が大学の文理学部の二年生で、全学の新入生歓迎実行委員会の実行委員長だったときのことです。
 大教室での新入生歓迎行事が終わったとき、彼女は、そこで演説した僕の前に現れました。
 教育学部の新入生でした。
 僕と同じ町から通っていました。
 県下の商業高校を卒業していました。
 高校のときから、日本共産党とともにがんばる日本民主青年同盟員でした。
 僕の立ち振る舞いに、「この人は日本共産党員か日本民主青年同盟員だろうな」と思ったのだとのでしょう。
 そう、僕は、その年の一月に日本共産党に入党していました。
 十九歳になる一か月前のことでした。
 日本民主青年同盟員でもありました。
 彼女一目見て、その姿に胸をきゅんとわしづかみにされました。
 「この女の子が恋人だったら、どんなに素敵だろうか」と、思いました。

 そのころ、僕たちのキャンパスでは、学生の五人に名一人は日本民主青年同盟員でした。
 彼女は、僕とは違う日本民主青年同盟の班に属しました。
 しばらくして、僕たちは、僕の意に反して、「兄と妹」のように仲のよくなりました。
 僕は文理学部学生自治会の委員長として、どうしても帰りが遅くなります。
 彼女も日本民主青年同盟などの活動で遅くなります。
 毎日のように大学の周辺で待ち合わせました。
 大学前から終点の僕たちの町に通じる路面電車。
 それに乗って、終点に着き、後は夜の町を三十分ほど歩いて彼女の家に送りました。
 道々の語らいの楽しかったこと。
 僕は夢心地でした。
 彼女の家の前で別れる前に「あしたの夜の会う時間と場所」を決めました。
 そして、四十分ほど歩いて帰宅しました。
 帰り道も心がほっこりあったかかったことを覚えています。

 彼女は、すごく魅力的な女性でした。
 たぶん、これは客観的な事実だと思います。
 その証拠に、次から次へと、「付き合ってほしい」と、いいよってくる男子学生がいました。
 彼女は、「こういう人が、こういうことをいってきたけれど、どうしょう」と、僕に相談をもちかけてきました。
 いろいろ理屈をつけて「その男と付き合うのはやめたほうがいい」と、いいました。
 ずいぶん多くの男性を傷つけました。

 僕たちは「いつでも一緒の仲良しコンビ」になっていました。
 映画にも、二人でいきました。
 でも、形は、ずーっと「兄と妹」でした。
 彼女は堅実で、きちんとアルバイトもして稼いでいました。
 僕は「学生運動が忙しい」ということを理由にアルバイトはしませんでした。
 二人で喫茶店にいっても金を出すのは彼女。「借りとくね」。
 なんと情けない「兄」でしょうか。

 ある夜、大学の近くで待ち合わせました。
 そのとき、何か切なくなって、立っていた彼女の額にキスしました。
 彼女も、静かに、それを受け入れました。

 しばらくして、ある喫茶店。
 僕は彼女に一般論の形をとって「結婚は何歳くらいでするの?」と、聞きました。
 彼女は「少なくても二十四歳までは結婚しないわ。きちんと教師としての地歩を築きたいから」と、いいました。
 そのころ二十歳だった僕は、「いますぐにでも結婚したい」と、いう気持ちでした。
 「これは、僕の気持ちにたいする拒絶だ」と、思いました。
 そして、あきらめました。
 僕は二十三歳で結婚しました。
 彼女も、その後すぐに結婚しました。

 そのあとでも、ずーっと、気になっていることがあります。
 あのとき、彼女は、僕の切実な思いをわからななかったのでしょうか。
 それとも、わかっていて、あんなふうにいったのでしょうか。
 いまだにわかりません。
 彼女は、いま、オートバイでひとっ走りしたら会える場所に住んでいます。
 「あのときの気持ちは?」
 そう聞いてみたいと思います。
 でも、ずーっと聞けないでいます。
 「えっ。あなたのことを私が…。それは、あなたの勘違いよ。とんでもない」
 そんな言葉が返ってくるのがこわくて。

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