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2008.06.06

今後千寿子さんの小説「長い一日」(『民主文学』二〇〇八年六月号)を読んで。

 二〇〇八年六月六日(八日に改善)。

   今後千寿子さんの小説「長い一日」(『民主文学』二〇〇八年六月号)を読んで

    【登場人物】

 ● 史朗 IT関連企業のプログラマー。就職して、もうすぐ一年。仕事で遅くなり、終バスにも間に合いません。夜中に帰宅すると食事も入浴もしないで、すぐ寝てしまいます。睡眠時間は五時間ほど。でも、寝過ごしたことがありません。朝、起床してからシャワーを浴びます。朝、食欲がなくてコーヒーのみ。

 ● 孝介 史朗の父。「出勤」する仕事をしています。

 ● 清子 史朗の母。カマボコの原料を売っている小さな会社に勤務。毎晩、車で駅に息子を迎えに行っています。

 ● 由紀 史朗の姉。看護婦。看護婦として働いていた病院を一年で辞めました。その後、家を出て二年近く派遣社員として職場を転々として、また病院に勤めだしました。母の弟への態度を「お母さんも優しいだけではあかんのよ。可哀相、可哀相で毎晩迎えに行くだけでは、史朗の何の足しにもなってへんよ」と批判します。

    【宮本阿伎さんの批評】

 宮本阿伎(みやもと・あき)さんが「しんぶん赤旗」五月二十八日付の「文芸時評」で、この作品を取り上げて、つぎのように書いています。
 
  『民主文学』の今後千寿子「長い一日」は、就職してもうすぐ一年になる息子に五時間しか睡眠時間がないことが不安でならない母親の一日を追う。看護師の娘が夕食時に「鬱の前兆が見える」という。その夜、十一時三十分に「これから電車に乗る」という意味の電話のコールが鳴り、車を駅に向かわせたが、その電車に乗っていなかった。不安が妄想をつのらせ、深夜の駅の構内を動き回る母親の取り乱す姿が身につまされた。現代の過酷さを鋭く切り取っている。

     【私の感想】

 ● 「現代の過酷さを鋭く切り取っている」と、いわれれば、そうかもしれません。このIT職場の長時間労働は、一九六〇年代から問題が続いている問題ですね。それを是としているわけではありませんが、こうした「実情」を、「息子の家庭での姿」からえがくことで読者は満足するでしょうか。

 ● 史朗は、会社でのうっぷんを家族に向けます。会社には何もものをいっていない様子です。会社にとって何と使いやすい、何という気弱な青年であることか。清子は、毎晩、息子を車で駅に迎えに行きますが。息子に必要な援助は、彼の「仕事に向き合う考え方」を変えさせることではないのでしょうか。

 ● 清子の職場でのあれこれも出てきます。小さな所も大変よといいたかったのでしょうが、もっとコンパクトでいいのではないでしょうか。そのぶんで、「史朗の職場での労働とかっとうの実際」もえがいてほしかったですね。これは取材しないと書けないと思いますが……。

 ● なぜ息子が駅にきていないのか、わざと書いていないのだと思いますが、やはり「結果」を書いてほしい。何だかフラストレーションがつのります。

 ● 全体として、「史朗が、なぜ、長時間労働にまきこまれたままで、それを突破しようとしないのか」、「なぜ清子が、『可哀相、可哀相で毎晩迎えに行くだけ』で終わっているのか。それでいいのか」という突っ込みが必要だと思いました。

 ● また、最後の「もう一人の史朗を迎えにきたのだと思った。」は、思いこみ。なぜ、推測を結論にするのか。作者は全能で事実を知っているのに。

 ● たとえば、この小説が映画になって上映されたと思ってください。私だったら「あーあ。なんとまぁ」と、暗然として帰途につくのではないでしょうか。

(以上)

 追伸

 八日午後、高知市で開かれた『民主文学』の読書会には九人が参加。この作品についても話し合いました。

 この作品については、「身につまされた」など非常に好評でした。

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コメント

私も30年来の「民主文学」の読者です。「長い一日」については、結末でなぜ息子が到着しないのか判明しないことも含め、おっしゃるとおり、「つっこみ不足」という指摘には全く同感です。なかなか「辛口」の批評ではありますが。

投稿: 和田英作 | 2008.06.07 10:31

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