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2009.07.26

高知市 短編小説「阿修羅の目をした彼女」。

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 朝、長い長い夢をみました。
 その夢のストーリーから、こんな短編小説が生まれました。
 今田四七(しな)というのは、夢の中で現われた女性の名前です。夢の中では四十二歳でした。
 この短編小説は、一時間半で書き終わりました。ただいま午前八時です。
 

   短編小説・阿修羅の目をした彼女

 
 「京都に、お花見にいきませんか。今度の日曜日、四月十二日はどうですか。午後一時、京都駅の鉄腕アトムの部屋の前で待っています」
 こんなメールを彼女に打ってしまいました。六日前のことです。
 「大胆なことをしたものだ」

 自分でも、そう思いました。
 彼女といっても、一度会ったきりの人です。

 四月五日夕方、新宿の南口周辺をぶらぶらしていたら向こうから僕の方を目指してくるような感じで歩いてきた若い和服の女性がいました。
 「あっ、阿修羅(あしゅら)の目だ。この人の目を撮りたい」
 一瞬、そう思いました。
 阿修羅というのは奈良市の興福寺の、あの青年の像、阿修羅のことです。 僕は、この目に、ぞっこんで、こんな目をした人のポートレートを撮ってみたいとつねづね思っていました。
 急ぎ足で彼女に向かっていって、声をかけました。
 「あのーーっ、お願いがあります。あなたの写真を撮らせていただけませんか。いえ、ヌードになってもらわなくてもいいんです。着物を着たままでいいんです」
 ちょっと、とんでもないことを……。
 自分でも思いました。
 しかし、……。
 「僕の名前は石川浩(ひろし)。浩はサンズイにツゲルです。年齢は三十五歳。いちおうプロのカメラマンです。フリーで、かつかつで食べています。普段は社会的なテーマで撮影していて若い女性のポートレートはあまり撮っていません。それと、えーっと、独身です。スーパーマーケットで主任をしている母と二人暮らしです。住所は新宿区のすぐそこの新宿御苑の正門の近くです。……」
 こんな自己紹介も一気にしゃべりました。
 彼女は、目を見開いて、きょとんとして聞いていました。
 突然、「わっはっは」と、本当に愉快そうに笑いました。
 そして、ふと我にかえったような感じで、こういいました。
 「そこの喫茶店に入りましょうか」
 彼女の先導で、その喫茶店に入りました。
 カウンター席です。
 歳は二十二歳。学校にもいっていないし、仕事もしていないこと。パソコンのメールアドレスはここ。……。彼女もいろんなことを話してくれました。
 それから、二人で僕のいきつけの、日本一小さいのではないかと勝手に思っている四人分ほどしかイスのない居酒屋にいって……。
 気がついたら、わが家の二階の僕の部屋でした。
 ベッドのかたわらには彼女が眠っていました。
 「ま、まずい……」
 しかし、よく見ると彼女の下着は乱れていないので乱暴はしていないようです。それに、やすらかにスースーと軽いいびきをかいて眠りこけています。
 安心しました。
 実は、僕は、これでも、これまでに女の子の下着姿など見たこともないようなタイプの男です。三十五歳にもなるのに……です。
 自分では節操のある人間だとおもってはいるのですが、まわりの男性たちは「合コンに誘っても参加しないし、おもっくるしいやつ」と、変人あつかいしています。
 いやいや、もてないわけではありません。身長は百八十センチ、体重は六十キロ、顔は、キムタクにほんの少し似ています。大学生のころには、何人かと恋をしたことがあります。と、いうことは、ことごとく振られてしまったということですが……。
 おっと、それどころではありません。問題は、僕の横で寝ている彼女のことです。
 僕は、彼女のくったくのない寝顔に安心して、気持ち良さそうに眠っています。
 少し布団をどけて「彼女」を見てみました。
 小柄な体に大きなおっぱい、それもツーンと乳房が立っている感じです。
 「目だけしか見ていなかったし……。和服だったし……」
 浩は、いいわけをするようにつぶやきました。
 そして、彼女の体を優しく抱え込むようにして、もう一度、寝ました。

 「浩、ご飯よ」
 一階から駆け上がってきた母の声で目覚めました。
 彼女も同時に目をさましたようです。
 「あらっ!」
 部屋に入ってきた母が、小さな驚きの声をあげました。
 「おはようございます。お母さん。おじゃましています」
 布団から上半身を出した彼女は、くっ、くつ、くと首をまわしてから、ほがらかにあいさつしました。
 「へーっ、すごいなぁ。こんなときには、そんなふうにいうんだ」
 浩は、心の中で、こんにセリフをはいてしまいました。
 何だか、すっごく感心してしまったのです。

 「じゃあ、またね」
 彼女がこう言い残して風のように、わが家を去ったのは、その二十分後でした。
 浩は、自分の部屋で、さっきまで彼女がいたベッドを見すえながら何か考えていました。
 といっても、心がどっかにいってしまったような状態で、何を考えているか自分ではわかりませんでした。
 あんなに長く話したのに肝心の写真撮影のOKはとっていません、それに名前や住所も聞いていません。
 でも、会いたい。
 写真を撮れなくてもいいから、もう一度会って話してみたい。
 「そうだ、僕の手帳にメールアドレスを書いてくれていた」
 メールを打つことにしました。    
 「京都に、お花見にいきませんか。今度の日曜日、四月十二日はどうですか。午後一時、京都駅の鉄腕アトムの部屋の前で待っています」

 何回もパソコンのメールを開けてみました。四月十一日の夜も。しかし、返事は来ていませんでした。
 「でも、京都にはいこう」
 僕は、カメラ機材をバッグに詰め込みました。
 あと必要なのは金だけです。タンスの引き出しから出して、バッグに入れました。
 もし、ビジネスホテルで泊まることになっても、下着などは部屋で洗って、自分はタオルを腰にまいて、ゆかたを着て寝ればいい。下着は、朝になると乾いているさ。大学を出てから十三年のカメラマン生活がつくりあげた習慣です。
 そして、四月十二日早朝、東京駅発の新幹線で京都へ。
 「何の返事もないしダメだろうな」
 そう思いながらもアトムの前で待ちました。
 待ち始めたのが午前十一時でした。
 正午前、もしかしてとバッグからエアエッジつきのパソコンを取り出しました。
 立ったまま作業開始です。
 メール受信。
 いつもながら迷惑メールがたくさん入ってきました。その中に「今田四七(しな)」さんからのものもありました。
 「彼女からかもしれない」
 「パソコン、あまり見ないものだから返事が超遅れてごめんなさい。いま十二日午前六時、いまから、すぐ支度をして出ます。じゃぁ、アトムの前で」
 パソコンから目を離すと、目の前に和服姿の女性が立ってました。
 笑顔です。
 そして、あの阿修羅の目です。
 浩の頭には、桜の花の中に彼女をすえた映像がいくつも浮かび上がりました。

 「じゃぁ、行きましょう」
 浩は、思わず彼女、四七さんの手を取っていました。

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