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2010.11.02

時の天皇陛下を袖にした、すごい意志の持ち主、「なよたけのがぐや姫」。

 月曜日の授業で平安時代の物語『竹取物語』の話がでました。
 で、きょう、この物語を、もう一度、読み直してみました。

 「なよたけのがぐや姫」は、言い寄ってきた五人の「貴公子」をケチョンケチョンにして追っ払ってしまいます。
 そして、天皇陛下にも、ヒジテツを食わせます。
 「なよたけのがぐや姫」は、すっごく自分の意思を持って行動します。
 時の天皇陛下をも恐れずに。
 すごい物語ですね。
 
 もし、昭和天皇が即位して以降の、一九四五年八月十五日(終戦)までに、こんな内容の、そのときふうの物語が出版されたら……。

 「恐れ多くも……」ということで、発売禁止、作者と出版者は不敬罪で牢獄へとなっていたかもしれませんね。

 以下、『竹取物語』の天皇陛下関連の所のあらすじです。

 http://www.h3.dion.ne.jp/~urutora/taketoripage.htm から。

 行がえをしました。

 

 さて、かぐや姫の器量が世に比類なくすばらしいことを帝がお聞きあそばされ、内侍の中臣のふさ子に、「多くの者の身を滅ぼすほどに、かたくなに結婚を拒むというかぐや姫とはどれほどの女か、出かけていって見て参れ」とおっしゃった。

 ふさ子は命令をお聞きして出かけていった。

 竹取の翁の家では恐縮してふさ子を招き入れ、対面した。

 お婆さんに内侍がおっしゃるには、「帝の仰せで、かぐや姫の器量が優れておられると聞いた。とく見て参れとのことでしたので参上しました」と言うと、「それならば、そのように申して参りましょう」と言って奥へ入った。

 かぐや姫に、「すぐに、あの御使者に対面なされよ」と言うと、かぐや姫、「よい器量でもありませぬ。どうしてお目にかかれましょうか」と言ったので、「情けないことをおっしゃる。帝の御使いを、どれほどおろそかになさるのか」と言うと、かぐや姫が答えるには、「たとえ帝がお召しになって仰られたとしても、恐れ多いとも思いません」と言って、いっこうに姿を見せようとしない。

 いつもは生んだ子のようなのに、このたびはこちらがとても気後れするような気配で、つっけんどんに言うので、お婆さんは思い通りに責めたてることができない。

 お婆さんは内侍のもとに戻ってきて、「残念ながら、この幼い娘はものの判断もつかない者ですので、対面しますまい」と申し上げた。

 内侍は、「必ずお会いして参れとの仰せでしたのに、お会いせずにどうして帰れましょうよ。国王の御命令を、この世に住んでおられる人がどうしてお受けせずにいられましょうか。道理に合わないことをなさいますな」と、お婆さんが恥じるほどの言葉遣いで言ったので、これを聞いたかぐや姫はなおさら承知するはずもない。

 「国王の御命令に背いたというならば、早く殺してしまわれよ」と言った。

 この内侍は御所に戻って、このことの次第を奏上した。

 帝はお聞きあそばされて、「多くの男を殺してきた心であるよ」とおっしゃり、その時は沙汰やみになったが、それでもやはりかぐや姫をお思いになられ、この女の心積もりに負けてなるものかと、翁に御命じになった。

 「お前のかぐや姫を献上せよ。顔かたちがよいとお聞きあそばし、御勅使を遣わしたが、その甲斐もなく会わずに終わってしまった。このようなけしからぬままでよいものか」とおっしゃった。

 翁は恐れ入ってお返事を申し上げるには、「この幼い娘は、まったく宮仕えできそうもなく、持て余し悩んでおります。そうは申しましても、戻りまして帝の仰せを娘に申し聞かせましょう」と奏上した。

 これをお聞きあそばされ、帝がおっしゃるには、「どうして、翁の手で育てたのに、自分の自由にならないのか、わが子ならどうにでもなるだろうに。この女をもし献上するなら、翁に五位の位を授けるものを」

 翁は喜び、家に帰ってかぐや姫に相談し、「このように紛れもなく帝は仰せになられた。それでもやはりお仕え申し上げないのか」と言うと、かぐや姫が答えて言うには、「一切、そのような宮仕えはしないと思っておりますので、無理にお仕えさせようとなさるならば消え失せてしまうつもりです。官位を授かるようにして差し上げ、私は死ぬばかりです」。

 翁が答えて、「そんなことをおっしゃるな。官位も、わが子を見られなくなっては何になろうか。それにしても、どうして宮仕えなさらないのか。死ななければならない理由があるものか」と言う。

 「それなら嘘かどうか、お仕えさせ死なずにいるか試してごらんなさい。私への志が並大抵でなかった多くの方々を破滅させてしまったのに、昨日今日に帝がおっしゃったことに従ったのでは、人々に恥ずかしい」と言うと、翁は、「世間がどうあろうと、あなたの命の危険こそが、私にとって重大事であるので、やはり宮仕えいたしかねることを参内して申し上げよう」と言い、参内して、「仰せのおことばのもったいなさに、あの娘を帝の御元に参上させようとあれこれいたしましたが、宮仕えに差し出すなら死ぬと申します。造麻呂の手に生ませた子でもありませぬ。昔、山で見つけた子なのです。そのため、気性の世の普通の人に似ていないのでございます」と奏上してもらった。

 帝が仰せになるには、「造麻呂の家は、山の麓に近いと聞く。御狩りの行幸をなさるような体で、かぐや姫を見ることができるだろうか」と。

 造麻呂が申し上げるには、「たいへん結構なことです。何の何の、かぐや姫がぼんやりしているようなときに、不意に行幸なさり御覧になられたら、きっと大丈夫でしょう」と奏上するので、帝は急に日を決めて、御狩にお出かけになり、かぐや姫の家にお入りになってご覧になると、光に満ちて坐っている人がいた。

 帝は、かぐや姫というのはこの人であろうとお思いになって近くにお寄りになり、奥へ逃げて入ろうとするかぐや姫の袖をとらえなさると、顔を隠したものの、帝は初めてご覧になり、類なく美しくお思いになって、奥に入るのを許さないと言い、連れていらっしゃろうとする、それにかぐや姫が答えて申し上げるには、「私の身は、この国に生まれておりましたら、召使としてお使いにもなれましょうが、そうではないので連れていらっしゃるのはたいそう難しいことでしょう」と申し上げた。

 帝は「どうしてそのようなことがあろうか。やはりどうしても連れていく」と言って、お輿を寄せられると、このかぐや姫は、急に姿が消えて影になってしまった。

 惨めで情けなく無念にお思いになり、まことに普通の人ではなかったと思われ、「それならば御供には連れて行くまい。元の姿におなりなさい。せめてそれを見るだけにして帰ろう」と仰ったので、かぐや姫は元の姿に戻った。

 帝は、なおさらすばらしい女だとお思いになる気持ちが抑えがたい。

 このようにかぐや姫を見せてくれた造麻呂の取り計らいをうれしくお思いになった。

 さて、御供の諸役の人々に、翁はもてなしを盛大にしてさしあげた。

 帝は、かぐや姫を残してお帰りになるのを、飽き足らず残念にお思いになったが、魂はとどめている気持ちで実はお帰りになられたのだ。

 このように、帝はかぐや姫と御心をお互いに慰め合っていらっしゃるうちに、三年ばかりたって、春の初めころから、かぐや姫は、月が趣きをもって出ているのを見て、いつもより物思いにふけるようすになった。

 側に仕えている人が、「月の顔を見るのは忌むことです」と制するが、ともすれば人のいない間にも月を見ては、ひどく泣く。

 七月十五日の月には、奥から出てきて座り込み、ひたすら何かに思い悩んでいるようすである。

 近くの侍女たちが竹取の翁に告げて言うには、「かぐや姫は、ふだんから月をしみじみと御覧になっていますが、このごろではただ事ではございません。ひどく思い嘆かれることがおありに違いありません。よくよくご注意なさってください」と言うものだから、翁がかぐや姫に、「どういう心地で、そのように思い悩んで月を御覧になるのか。けっこうな世の中なのに」と言う。

 かぐや姫は、「月を見ると、世の中が心細くしみじみと悲しく感じられるのです。どうして何かを嘆きましょうか」と言う。

 ある夜、かぐや姫のいる所に行って見ると、それでもやはり何か思いつめているようすでいる。

 これを見て、「私の大切な君よ、何事を思い悩んでおられるのか。思いつめておられるのは何事か」と尋ねると、「思いつめることなどありません。何となく心細いだけです」と言うので、翁は、「月を御覧になるな。これを御覧になるから、物思いをするようになってしまう」と言うと、「どうして月を見ずにいられましょうか」と言って、やはり、月が出ると出て行って座っては嘆いて思い悩んでいる。

 月の出ない夕闇の時分には思わないようである。

 でも、月の出るころになるとやはり、しきりに思い嘆く。

 召使いたちは「やはり思い悩むことがあるに違いない」とささやくが、親を始め、だれもが訳がわからない。

 八月十五日近くの月に縁側に出て、かぐや姫はたいそうひどく泣いておられる。

 今では人目も気にかけずお泣きになる。

 これを見て、親たちも「何ごとか」と大騒ぎして尋ねる。

 かぐや姫が泣く泣く言うには、「以前にも申し上げようと思いましたのですが、お話すればきっと心をお惑わしになると思い、今まで黙って過ごしてきたのでございます。けれどもそうしてばかりもいられないので、打ち明けます。私はこの国の人ではないのです。月の都の人です。前世からの約束によって、この世界に参りました。もう帰らなければならないときになり、この月の十五日に、あのもとの国から迎えがやってくるでしょう。避けることもできず、お二人がこのことを聞けば思い嘆きになることが悲しく、そのことをこの春先から思っては嘆いていたのでございます」と言って、ひどく泣くので、翁、「これは何ということをおっしゃる。竹の中から見つけて、菜種ほどの大きさでいらしたのを、私の背丈に立ち並ぶまでに養い申し上げたわが子を、いったい何者がお迎えするというのか。そんなことをどうして許せようか」と言い、「まずこの私が死のう」と泣き騒ぎ、ひどく堪え難いようすとなった。
 

 かぐや姫が言うには、「私には、月の都の人である父母がいます。ほんの少しの間ということで、あの国からやって参りましたが、このようにこの国で長い年月を経てしまいました。今ではあの国の父母のことも思い出さず、ここでこのように長い間過ごさせていただき、お爺様お婆様に慣れ親しみ申し上げました。月の国に帰るといってうれしい気持ちはありません。ただ悲しいばかりです。それでも自分の心のままにならず、お暇申し上げるのです」と言って、いっしょになって激しく泣く。

 召使いたちも、長年慣れ親しみながらそのまま別れてしまうのは、気立てなどに気品があり愛らしかった、その見慣れた姿を恋しく思うであろうことが堪え難く、湯水ものどを通らず、翁や嫗と同じ心で悲しがった。

 このことを帝がお聞きあそばして、竹取の翁の家に御使者を遣わされた。

 御使者に竹取の翁は出て会ったが、ただ泣くばかりである。

 あまりの嘆きに、ひげも白くなり、腰もかがまり、目もただれてしまった。

 翁は、今年は五十歳ばかりであるのに、思い悩み、まことにわずかな間で老人になってしまうものと見える。

 御使者が、帝の仰せごととして、「周りの者がたいそう心苦しく思うほど思い悩んでいるというのはまことか」とおっしゃる。

 竹取の翁は泣く泣く申し上げる。

 「この十五日に実は、月の都からかぐや姫の迎えがやって来るのです。もったいなくもよくお尋ねくださいました。この十五日は、御家来衆を派遣くださり、月の都の人がやって来たら捕らえさせていただけないものか」。

 御使者は帰り参上して、翁のようすを申し上げ、翁が奏上したことなどを申し上げた。

 帝はそれをお聞きあそばして、おっしゃるには、「一目見た私の心でさえかぐや姫のことを忘れられないのに、明け暮れ見慣れてきたかぐや姫を月の都にやっては、翁はどれほど辛く思うであろうか」

 その十五日、役所役所に命じて、勅使少将高野の大国という人を任命し、六衛府の武官あわせて二千人の人を竹取の翁の家にお遣わしになった。

 家にやって来て、築地の上に千人、屋根の上に千人、翁の家の召使いたちの多人数にあわせて、あいている隙間もなくかぐや姫を守らせた。

 この守護する召使いたちも、男は弓矢を携え、母屋の内では女どもに番をさせて守らせた。

 嫗は、塗籠の中にかぐや姫を抱きかかえている。

 翁は、塗籠の戸を閉ざして、戸口に待機している。

 翁が言うことは、「これほど守りを固めた所で、天人にも負けるものか」と、そして屋根の上にいる人々に言うには、「少しでも何か空を飛んだら、すぐに射殺してくだされ」。

 守る人々は、「これほどにして守っている所に、針一本でも飛んできたら、射殺してのけてしまおうぞ」と言う。

 翁はこれを聞いて頼もしく思った。

 これを聞いてかぐや姫は、「私を閉じ込めて守り戦う準備をしたところで、あの国の人に対して戦うことはできないのです。弓矢でもってしても射ることはできないでしょう。このように閉じ込めていても、あの国の人が来たら、みな開いてしまうでしょう。戦おうとしても、あの国の人が来たら、勇ましい心をふるう人もきっといなくなるでしょう」。

 翁は、「あなたをお迎えに来るその人をば、長い爪で眼をつかみつぶそう。そやつの髪の毛を取って、かきむしって落としてやろう。そやつの尻をひんむいて、大勢の役人たちに見せて恥をかかせてやろう」と腹を立てている。

 かぐや姫が言うには、「声高におっしゃいますな。屋根の上にいる人たちが聞くと、たいそう具合が悪い。お爺さん、お婆さんのこれまでの心尽くしを思い知らないかのようにお別れするのが、何とも残念でございます。この世に長くとどまるという前世からの宿縁がなかったために、まもなくお別れしなくてはならないのが悲しいのです。親たちの世話をわずかも致さず帰っていくその道中も、私の心は安らかにはなりますまい。この幾日かの間も、端近に出て座って、今年いっぱいの猶予を願ったのですが、どうしても許されず、思い嘆いています。お爺さん、お婆さんのみ心をばかり悩まして去ってしまうのが、悲しく耐え難く思います。あの月の都の人は、たいそう華やかで美しくて、老いることは実はないのです。思い悩むこともありません。そのような所へ戻りましても、殊更にうれしくもございません。お爺さん、お婆さんが老い衰える姿をみて差し上げられないのが何よりも心残りで、恋しゅうございましょう」と言うと、翁は、「胸が痛くなることをおっしゃいますな。立派な姿の月の国の使者であろうと、じゃまはできまい」と、いまいましがった。

 こうしているうちに、宵の時刻が過ぎ、午前0時ごろに、家の周りが昼の明るさ以上に一面に光りわたり、満月の明るさを十倍にしたようで、そこにいる人の毛穴まで見えるほどだった。

 空から人が雲に乗って降りてきて、地面から五尺ほど上がったところに立ち並んでいる。

 これを見て、家の内外にいる人々の気持ちは、物の怪に襲われるようで、戦おうとする気持ちもなくなった。

 何とか思い起こして弓矢を取って矢をつがえようとするが、手に力が入らず萎えてしまった。

 その中で心のしっかりした者が、恐怖をこらえて矢を放とうとしたが、あらぬ方向へ飛んでいってしまい、荒々しく戦うこともなく、ただ茫然として、お互いに見つめ合っている。

 立っている人たちは、衣装の美しく華やかなこと、比類がない。

 空飛ぶ車を一台ともなっている。

 車には薄絹を張った天蓋(てんがい)が差しかけてあった。

 その行列の中で王と思われる人が、家に向かって、「造麻呂、出て参れ」と言うと、猛々しくふるいたっていた造麻呂も、何か酔ったような心地がして、うつぶせにに伏してしまった。

 王が言うには、「お前、愚か者よ。ちょっとした善行があったから、お前の助けにと、わずかな間ということでかぐや姫を地上に降ろしたのに、多くの年月、多くの黄金を得て、身を変えたようになってしまった。かぐや姫は罪をおつくりになったために、このように卑しいお前のところに、しばらくいらっしゃったのだ。今は罪を償う期限も終わったのでこのように迎えにきているのに、翁は泣いている。できないことだ。かぐや姫を早くお出し申し上げろ」と言う。

 翁が答えて申すには、「かぐや姫を養育申し上げて二十年余りになった。それを『わずかな間』とおっしゃるので、いぶかしく思いました。また、別の所にかぐや姫という人がいらっしゃるだろう」と言う。

 そして「ここにおられるかぐや姫は、思い病気をなさっているので、お出になれますまい」と申し上げると、その返事はなく、屋根の上に飛ぶ車を近づけて、「さあ、かぐや姫。汚れた所にどうして長くおられるのか」と言う。

 締め切っていた戸が、突然、ずんずん開いていく。

 格子なども、人がいないのに開いていく。

 お婆さんが抱きかかえて座っていたかぐや姫は、外に出てしまう。

 とどめることができそうもなく、翁たちはただ空をさし仰いで泣いている。
 

 竹取の翁が心乱れて泣き伏しているところに近寄って、かぐや姫が、「私も心ならずしてこのように出て参りますので、せめて天に上っていくのだけでもお見送りください」と言うものの、「いったい何のために、ただでさえこんなに悲しいのにお見送りするというのか。私にどうせよというおつもりで捨ててお上りになるのか。ぜひ連れて行ってください」と泣き伏すので、かぐや姫も心乱れてしまう。

 「手紙を書き置いて参りましょう。恋しく思ってくださる折々に、取り出して御覧になってください」と言って、泣きながら書いたことばは、
 

 <この国に生れたのであれば、お爺様お婆様を悲しませないころまでごいっしょに過ごさせていただくべきですが、それもできずお別れすることは、重ね重ねも不本意で残念に思います。脱いで残しておく着物を、私の形見と思って御覧ください。月が出る夜には、御覧になってください。お二人をお見捨てして参ります空から、落ちてしまいそうな気がいたします。>と書き置く。

 天人の中の一人に持たせた箱がある。

 天の羽衣が入っている。またもう一つの箱には不死の薬が入っている。

 一人の天人が、「壺に入っている御薬をお飲みなさい。汚れた所のものを召し上がっていたので、きっとご気分が悪いに違いない」と言って、壺を持って寄ってきた。

 かぐや姫はほんのわずか御薬をなめて、少しを形見として脱ぎ置いた着物に包もうとすると、天人は御薬を包ませず、お召し物を取り出して着せようとした。

 その時、かぐや姫は「しばらく待ってください」と言う。

 「羽衣を着せてしまった人は、心が変わってしまうといいます。その前に何か一言、申し上げておかなくてはならないことがありました」と言って、手紙を書き始めた。

 天人は、遅いとじれったがり、一方かぐや姫は、「わけのわからないことをおっしゃらないで」と言って、とても静かに、朝廷に差し上げる御手紙をしたためた。

 ゆったりとしたようすであった。

 「こんなに大勢の人をお遣わしくださり、私をお引きとどめようとあそばされましたが、拒むことのできない迎えが参り、私を連れて行ってしまいますのを、無念で悲しく思います。宮廷に出仕できずに終わってしまいましたのも、このように面倒な身でございましたので。ご納得できずお思いあそばされましたでしょうけれど、帝のお言葉を強情にお受けせず、無礼な者とお思いになり御心におとどめなさっていると、心残りになっております」と書き、

 <今はお別れと天の羽衣を着るときになってはじめて、あなた様をしみじみ思い出します。>

 と書き加え、壺の薬を添えて、頭中将を呼び寄せて献上させようとした。

 頭中将に天人が手渡した。

 頭中将が受け取ると、天人がいきなりさっと天の羽衣を着せたので、かぐや姫のこれまで翁をいたわしく、いとしいと思っていた気持ちが消えてしまった。

 羽衣を着たかぐや姫は、憂い悩むことがなくなってしまい、そのまま車に乗り、百人ばかりの天人を引き連れて、天に上ってしまった。

 その後、翁も嫗も、血の涙を流して悲嘆にくれたものの、何の甲斐もなかった。

 あのかぐや姫が書き残した手紙を読んで聞かせても、「どうして命が惜しかろうか。いったい誰のためにというのか。何事も無用だ」と言って、薬も飲まず、そのまま起き上がりもせず、病に伏せっている。

 頭中将は、家来たちを引き連れて帰り、かぐや姫を戦いとどめることができなかったことを、事細かに奏上した。薬の壺にかぐや姫からのお手紙を添えて差し上げた。

 帝は手紙を御覧になって、たいそう深くお悲しみになり、食事もお取りにならず、詩歌管弦のお遊びなどもなかった。

 大臣や上達部をお呼びになり、「どこの山が天に近いか」とお尋ねになると、お仕えの者が奏上し、「駿河の国にあるという山が、この都にも近く、天にも近うございます」と申し上げた。

 これをお聞きになり、

 <もう会うこともないので、こぼれ落ちる涙に浮かんでいるようなわが身にとって、不死の薬が何の役に立とう。>

 かぐや姫が献上した不死の薬に、また壺を添えて、御使いの者にお渡しになった。

 勅使に対し、つきの岩笠という人を召して、駿河の国にあるという山の頂上に持っていくようお命じになった。

 そして、山の頂でなすべきことをお教えあそばした。

 すなわち、お手紙と不死の薬の壺を並べ、火をつけて燃やすようにとお命じになった。

 その旨をお聞きし、兵士らを大勢連れて山に登ったことから、実はその山を「富士の山(士に富む山)」と名づけたという。

 そのお手紙と壺を焼いた煙が今も雲の中へ立ち上っていると言い伝えている。

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