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2011.01.10

【エッセイ】 『伊勢物語』二十三段を読む 同じ「風吹けば……」でも、私は感情の熱で「かなまり」の水を沸騰させた妻の話が好きです。 

 『伊勢物語』二十三段は、嫌な男と、その賢い妻の話です。

 二人とも「ゐなかわたらひ」をしていた人の子どもでした。
 幼なじみで、両想いで一緒になりました。
 妻のもとに夫が通い、夫がやしなわれる結婚だったようです。
 妻のほうの親が亡くなり妻の家は経済的に苦しくなります。
 すると、夫は、妻のもとに通いながらも、ひと山越えた里、「河内の国、高安(たかやす)の郡(こうり)」の新しい女の所にも通うようになります。
 妻は、それに文句をいいません。
 夫は「こと心ありてかかるにやあらむ」と疑って、高安に行ったふりをして前栽に隠れて妻の様子を探ります。
 妻は、「いとよう化粧(けそう)して、うたながめて」つぎのような歌を詠みます。

  風吹けば沖つ白浪(しらなみ)龍田山
    夜半(よは)にや君がひとり越ゆらむ

 この歌を聞いて夫は、いとおしく思って、それ以降、高安にはあまり行かなくなります……。
 この話、私は嫌いです。
 経済的に困難になったことで妻を裏切り、その上、妻を疑ってのぞき見する、いやな男に対する批判的な視点がないからです。
 それに妻のほうも、そんな夫の性格を知っていて、のぞき見するように仕向けている様子があるからです(これは、私の勝手な解釈ですが……。ほんとは、こんな裏切り夫は追いだしてやればいいと思うのですが……)。

 この歌は、同時代の後二つの書物にも載っています。

 一つは『古今和歌集』です。

 風吹けば沖つ白波立田山夜半には君がひとりこゆらむ(題しらず。読人不知)

 ここにある物語は、『伊勢物語』の、その部分とほぼ同じです。
 少し違うのは妻が「夜ふくるまで、琴をかきならしつゝ、うちなげきて、この歌をよみて寝にければ」というところと、これを見た夫が「それより、また外へもなからずなりけり」というところです。
 二つ目は『大和物語』です。
 ここでも妻は、同じ歌を詠みます。
 しかし、その様子は少し違います。
 「はしにいでゐて、月のいといみじうおもしろきに頭かいけづりなどしてをり。夜ふくるまで寝ず。」
 そして、歌を詠みます。
 そして、「この女、うち泣きて、かなまり(金属製のわん)に水を入れて、胸になむすゑたりける。……この水熱湯にたぎりぬれば、湯ふてつ。また水を入る。」
 それを見ていた夫は、走りい出て、かき抱いて寝ました。
 「かくて(夫は)ほかへもさらにいかで、つとゐにけり。」
 水を沸騰させたのは、妻の悲しみと愛と憤りの熱だと思います。妻の行為は、猟奇的ですが、感情の発露としては自然です。この物語が、私は一番好きです。

 【参考文献】

 『伊勢物語の原風景 愛のゆくえをたずねて』。原國人。有精堂出版株式会社。一九八五年十一月二十日。

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