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2013.06.18

【反戦詩】 中野重治の「新聞にのった写真」、「兵隊について」

 中野重治(なかのしげはる。一九〇二年一月十五日~一九七九年八月二十四日)は天皇の軍隊の残忍性、その軍隊にひっぱられた兵隊の苦悩をうたった詩「新聞にのった写真」、「兵隊について」を書いています。
 いずれも一九三五年の『中野重治詩集』に収録されている作品です。)
 中野は、一九三一年に日本共産党に入りました。一九三二年四月に検挙され一九三四年に「転向」していますので、二つの作品は検挙以前のものだと思われます。

  新聞にのった写真

 ごらんなさい
  こっちから二番目のこの男をごらんなさい
  これはわたしのアニキだ
  あなたのもう一人の息子だ
  あなたのもう一人の息子 私のアニキが
  ここにこのような恰好をして
  脚絆(きゃはん)をはかされ
  弁当をしょわされ
  重い弾薬嚢でぐるぐる巻きにされ
  構え銃(つつ) タマ込め ツケケンをさされて
  ここに
  上海(シャンハイ)総工会の壁の前に
  足をふんばって人殺(・・)しの顔つきで立たされている
  ごらんなさい 母上
  あなたの息子が何をしようとしているかを
  あなたの息子は人を殺(・)そうとしている
  見も知らぬ人をわけもなく突き殺(・)そうとしている
  その壁の前にあらわれる人は
  そこであなたの柔(やさ)しいもう一人の息子の手で
  その慄(ふる)える胸板をやにわに抉(えぐ)られるのだ
  いっそうやにわにいっそう鋭く抉られるために
  あなたの息子の腕が親指のマムシのように縮んでいるのをごらんなさい
  そしてごらんなさい
  壁の向こうがわを
  そこの建物の中で
  たくさんの部屋と廊下と階段と窖(あなぐら)との中で
  あなたによく似たよその母の息子たちが
  錠前をねじ切り
  金庫をこじあけ
  床と天井とをひっぺがえして家探しをしているのを
  物盗りをしているのを
  そしてそれを拒むすべての胸が
  円(まる)い胸や 乳房のある胸や あなたの胸のように皺(しわ)のよった胸やが
  あなたの息子のと同じい銃剣で
  前と後とから刺し貫(・)かれるのをごらんなさい
  おお
  顔をそむけなさるな 母よ
  あなたの息子が人殺しにされたことから眼をそらしなさるな
  その人殺しの表情と姿勢とがここに新聞に写真になって載ったのを
  そのわななく手の平で押えなさるな
  愛する息子を腕の中からもぎ取られ
  そしてその胸に釘を打ちこまれた千人の母親達のいることの前に
  あなたがそのなかのただ一人でしかないことの前に
  母よ
  私と私のアニキとのただ一人の母よ
  そのしばしばする老眼を目つぶりなさるな

  兵隊について

 見たか
 賢こそうな泣きつらを
 背嚢(はいのう)形の汗を
 からだ中から革具の匂いのしてたあの若い兵隊を
 気づいたか
 あいつがちらりと見たのを
 君に何か言いかけようとしたのを
 言いかけようとして言いかけ了(おお)せなかったのを
 奴は言おうとしたのだ
 ――見てくれおれを
 おれは兵隊だ
 おれは兵卒だ
 そしておれが兵卒だということがいっさいなのだ
 でかい兵器廠がぐゎんぐゎん吠(ほ)え立て
 おれたちは年がら年中人殺の(・・・)稽古(けいこ)だ
 そして「殺せ(・・)っ」ときやがる
 ウムを言わせぬのだ
 靴とビンタと減食と寝台かつぎとだ
 ゴムと締め(・・)木だ
 誰かの母親の(・・・)脇の下へ拳骨(げんこつ)をつっこんでどこかの 赤ん坊の頭を銃(・)の台尻(・・)でつぶすのが
 ひとの細君(・・)に眼隠しをして逆さに吊る下げるのが
 そんなことで人をいためつけて虐む(・・)ことで
 おれたちの手をもっと大きくし
 もっと頑丈(がんじょう)にし
 そして汗をかくのが仕事なのだ
 煉瓦(れんが)で石子詰(いしこづ)めにされ
 いじめていじめぬかれて
 憲兵(・・)につかれて
 どこでも どうしてでも 誰に向かっても
 ひと言「やめてくれ!」と言えぬのだ
 おれたちは何べんも脱走(・・)した
 何べんも自殺(・・)した
 おれたちは兵卒で
 兵卒だということがいっさいなのだーー
 奴はこう言おうとしたのだ
 賢こそうな泣きっつらで
 そして返事をもとめたのだ
 手をかして
 腰を上げてほしかったのだ
 奴らはいつでも
 電車の中でも汽車の中でも
 日曜の街上でも
 旗日の活動小屋でも
 どこかの演説会でも
 なにかの集会でも
 あっちでもこっちでも眼配せしたのだ
 賢こそうな泣きっつらでいっぱい側へよって来たのだ

 【参考文献】

 ・『日本文学全集 36 中野重治集』。筑摩書房。一九七〇年十一月一日。

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