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2013.06.27

【反戦詩】上野荘夫の「支那へ行くのか」。

  上野荘夫は「支那へ行くのか」という詩を書いています(『文芸戦線』、一九三七年九月号』。同年同月一日。文芸戦線社)。これは、戦士として中国に派兵される労働者、農民への反戦の呼びかけです。

 兵士よ!
 汗と埃に塗れたからだをひきづつて
 お前達は支那へ行くのか
 たくましい腕には銃を握り
 背嚢には重い弾薬を填め込み
 心臓には黄色の支那に対する侮辱と憎悪とを燃して
 兵士よ!
 お前達は支那へ行くのか

 かつてお前達の腕は
 埃で薄暗い工場に輪転機のハンドルを握り
 真夏の太陽が油のやうに焼けつく街路に
 ハンマアを振りあげてゐた
 それから麦の刈取られた段々畑に、水田に
 お前達の手には残らぬ収穫の種を蒔いてゐたのだ
 今、お前達のたくましい腕は
 恐ろしい銃を握つてゐる!
 おお、お前達は支那へ行くといふのか?
 病み衰へた母親を捨てて
 町へ買はれて行つた妹達を捨てて
 それから泣き叫ぶお前の子供らを捨てて
 支那の労働者たちを○○○○ために
 他でもない、彼らを○○○○ために

 昨日まで、そして今日も
 お前達の背中には
 残酷な地主の鞭が唸つてゐるのだ!
 非道な資本家どもの搾取機が備へつけられてゐるのだ!
 払つても払ひ切れぬ重税と
 耐えても耐え切れぬ迫害とが覆ひかぶさってゐるのだ!
 そいつを、
 散々お前達を苦しめ抜いてゐるそいつを、
 何時の間にお前達は忘れてしまつたのだ?
 昨日までお前達は
 あいつ等を憎んでゐたではないか!
 あいつ等をやつつけようと思つてゐたではないか!
 その反抗を、その憤怒を、
 何時の間に忘れてしまつたのだ、お前達は。

 兵士よ!
 「○○○」とは自分の国を愛することだといふのか?
 自分の国を愛することは
 お前達自身を、お前達の両親を、仲間を、子供らを、
 お前達の畑や、工場を、
 愛することだといふのか?
 さうなのか?
 よろしい、俺は言はう!
 それはかうなのだ
 おれ達をぶちのめした地主どもを
 おれ達を胡魔化してゐる坊主どもを
 おれ達を散々いぢめぬいたあいつ等を
 愛するといふことなのだ!

 昨日まで、お前達の心臓は
 あいつ等に対する歯を喰ひしめた憎悪で
 忍従に耐えられなくなつた叛逆で
 圧迫された生活の苦痛で
 絶望からの自暴自棄で
 破裂しさうになつてゐたのだ!
 その憎悪を、叛逆を、苦痛を、自暴自棄を、
 お前達は支那へ持つて行かうといふのか?
 お前達と同じ憎悪から、叛逆から、
 振い立つた支那の兄弟を○○○○に行くといふのか?
 お前達のやうにぶちのめされてゐる支那の民衆を、
 お前達をぶちのめしたあいつ等のために
 ○○○○に行くといふのか?

 兵士達、兄弟よ!
 今、お前達が何をしようとしてゐるか
 考へて見るがいい!
 あいつ等の口実や
 あいつ等の胡魔化しを信ずるな!
 兵士達、愛する兄弟よ!
 誰がそれを命令しようとも、
 誰がそれを強制しようとも、お前達は
 「敵」のために、「味方」を殺しはしないだらう!

 さうだ!
 お前達はよく知つてゐるのだ!
 誰がお前達を戦争に追ひやるか、
 誰がお前達に「味方」を殺させるか。
 さうだ!

 お前達は支那へ追ひやられるだらう
 お前達は銃を持たせられるだらう
 だが、
 お前達の持つてゐる武器は
 憎むべきあいつ等を、お前達の真実の「敵」を、
 ○○○○ことが出来るのだ!

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