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2013.06.25

【反戦詩】 佐藤さち子は「田をうないつつ」。「おらア女でも野良着の便衣隊だ」。

 佐藤さち子は「田をうないつつ」を『プロレタリア文学』一九三二年四月作品増刊号に発表しました(北山雅子名で)。
 戦死した兄に思いをはせて反戦を誓う妹を歌っています。

 野良に早春の風が吹くど。
 今日もしきりと雲雀奴(ひばりめ)がさえずってるが
 ガッチャリと振り下ろした万能で
 昨年の根っ子を掘り返し乍ら
 おらが胸はむれ返るだ
 おっ母ア煙草を吸いつけなれや
 んー
 振り返りもせず黙々と万能を振るおっ母。

 この田が青田のままで差押さえられた時
 立入禁止の立札を引抜いて、へし折った兄ちゃんだったが。
 共同耕作と云えば真先に
 鍬をかついで出掛けて行く兄ちゃんだったが。
 昨年の秋。拘留の中から召集され
 間もなく受けとった戦死の報せ。

 おっ母は五黄の寅年生れ
 うこん木綿を持ち廻り
 一針一針愚痴まじりに年の数ほど縫い
 人様の顔を見れば、針を押しつけ
 縫い綴った千人縫も送ったが
 前からか
 背後からか
 とんで来た弾丸を防ぐどころか。

 今朝
 新家(しんや)のお茶に招ばれた時
 ふと眼についた新聞の写真
 ――これが勇士の母親だ――と、
 泣き笑いしたおっ母のかお。
 「お前ん家のおっ母は幸福者だぞや
 息子のおかげで、ほれ新聞さまであげられて」
 新家のご内儀は、苦もなく鼻の先で振って見せたが。

 兄ちゃんは名誉の戦死
 気の強いおっ母は、涙もこぼさないが
 あれから、ろくろく口もきかず
 万能振りつつ低声(こごえ)でつぶやく
 ――ここは御国を何百里――
 遠い満洲で戦死した勇士の
 母と妹は
 日手間稼いで芋粥すするだ。

 おっ母の一人息子、
 分骨された骨も 誰のもんだか
 おっ母、チャンコロを憎むのは止そうよ、
 「支那の仲間を殺したくない」と
 兄ちゃん手紙にも書いてあったが。
 兄ちゃんを殺(×)したのは兄ちゃんに
 爆弾を背負わせた奴(×)等だ

 おっ母。
 振り上げる万能は鉄砲のように重い
 今こそ泥に塗れ地主の田をうなってるが
 おらア女でも野良着の便衣隊《※》だ
 なあ おっ母
 野良に
 早春の風が吹くぞ。
 
 ※日本軍に抵抗するために、平服のまま一般市民にまぎれ、襲撃や宣伝などをした中国人の部隊。

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