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2013.06.23

【反戦詩】 槇村浩の「出征」。『詩・パンフレット第一輯 赤い銃火』の巻頭詩。

 日本プロレタリア作家同盟は、一九三二年四月二十日に『詩・パンフレット第一輯 赤い銃火』を発行しました。「序」は同年三月付です。
 その冊子の最初の詩は槇村浩の「出征」でした。
 
 今宵電車は進行を止め、バスは傾いたまま動かうともせぬ
 沿道の両側は雪崩れうつ群集、提灯と小旗は濤のように蜒り
 歓呼の声が怒濤のやうに跳ね返るなかをおれたちは次々にアーチを潜り、舗道を踏んで
 いま駅前の広場に急ぐ
 おゝ、不思議ではないか
 かくも万歳の声がおれたちを包み
 おれたちの旅が
 かくも民衆の怒雷の歓呼に送られるとは!

 春の街は人いきれにむれ返り
 銃を持つ手に熱気さへ伝はる
 火の海のやうな市街を見詰めながら、おれはふと思ふ
 おれたちこそ
 苦闘する中国の兄弟に送られた××の×軍
 国境を越えて共に暴圧の鎖を断ち切る自由の戦士!
 いま丘を越え
 海を越えて
 武器を携へ急×に赴くおれたちではないかと
 けたゝましく響く喇叭の音におれはふと我に返る
 (……蒋介石ごときは問題ではない
 (わが敵はたゞ第十九路軍……
 砂風の吹き荒れる営庭で、拳を固めて怒鳴つた肥つちよの連隊長の姿が、
 烈しい憎悪と共にまざ〱(まざ)と眼の前に浮ぶ
 おゝ、第十九路軍
 屈辱と飢餓の南京政府を蹴飛ばして
 下からの兵士の力で作り上げた×衛軍
 狼狽する蒋介石を尻目にかけ、敢然と××政府に戦ひを宜した
 英雄的な中国のプロレタリアートと貧農の決死隊
 きみらの隊列の進むところ
 ××××の××は惨敗し
 土豪・劣紳・買弁が影を潜めた
 よし!
 ×仏英米の強盗どもが、君たちに陣地を棄てよとジュネーヴから命じようと
 よし!
 妥協した帝国主義者共の大軍が君たちに襲ひ掛からうと
 君たち第十九路軍の背後には中国ソヴエート政府が厳存し
 君たちの前には
 全世界の同志の差し出す無数の腕がある

 歩廊に整列し
 ステップを踏んでおれたちは乗車する
 おれの頭を掠めるは残された同志
 あの路次の屋根裏で
 Kは今夜もガリ版を切り
 Dは円い眼鏡の奥から、人なつこい笑ひを覗かせながらビラを刷り
 Tは膝の上に「無新」を載せ、黙りこくつて糊を煮てゐるだらう
 おゝ――それとも
 きみらは今宵群集の中に潜り込み
 栗鼠のやうにすばしこく、人人の手から手へ反×のビラを渡してゐるのか

 欺かれた民衆よ
 粧はれた感激よ
 祝福された兵士たちの何と顔色の蒼いことか
 万歳の声に顔をそむけて眼鏡を曇らすおまへ
 白布にくるんだ銃を杖に突いてぢつと考へ込むおまへ
 とつてつけたやうな供笑で話題を女の話に外らせようとするおまへ
 そして恐らくは彼方の車の中で、ごつた返す荷物に腰を下ろし馬の
 首を抱いて泣き濡れてゐるであろうおまへ
 枯れた田地と
 失業に脅える工場を後に残して
 一枚の召集状でむりやりに×××行かれるおまえらにとって、顔色の
 蒼いのは無理ではない
 ――だが
 今宵おれの胸は嬉しさに膨らみ
 心臓は喜ぴにどきんどきんと鼓動をうつ
 おれの喜びは、生れて始めてすばらしい武器を手にしたプロレタリアートの喜びだ!
 おれの嬉しさは
 戦場という大仕掛けの職場の中で兵士の不平を××させる導火線、
 軍隊×××となつた嬉しさだ!

 鎖が鳴り
 汽笛の音が早春の夜空に消える
 風は駅頭の歌声を消して行き
 街の灯は次第にかすかになる
 ゆくてに明滅する赤いシグナルを見詰めながら
 おれは心に誓ふ!

 けふ
 たつた今からさりげない調子で兵卒のひとりひとりに話し掛け
 ××を覆ふ神聖なヴェールを引つぺがし中国ソヴェート建設の×の
 ものがたりをきみらの胸に沁み込ませ

 やがて
 怒濤を蹴つて港を離れる船の中で
 きみらの不平の先頭に立ち

 明日
 上海の塹壕で
 ××委員会の旗幟をたかく掲げ
 士官らを壁に×たせ
 全東洋被圧迫大衆の春の歌を高らかにうたふ、揚子江の河べりに
 十九路軍の兵士と××××
 (……おゝ、おれは×衛軍の一兵卒!

 明後日
 幸におれが                 
 (よし、おれが××士官の銃先に斃れようとその時はおれの屍を踏み越えて
 更にすぐれた、更に多くの同志たちが)
 ×旗を立て
 大衆の心からの歓呼を浴びて
 なつかしい故郷へ帰るとき
 残された同志らよ
 苦闘にやつれた君たちが×旗を振って万歳を唱へえるとき
 おゝ その時こそ
 共に歌はうぞ
 ××××××××××建設の歌を!

 第十九路軍は、国民党の蒋介石の命で蒋光鼐(しょうこうだい。一八八八年十二月十七日~一九六七年六月八日)と蔡廷鍇(さいていかい。一八九二年四月十五日~一九六八年四月二十五日)が一九三〇年八月に組織した国民革命軍第十九路軍のこと。蒋光鼐が総指揮、蔡が軍長に任命されました。
 一九三二年一月、日本軍が上海へ進軍してくると、国民党中央は同軍に撤退を勧めたが、蒋光鼐と蔡廷鍇は防衛線を堅持し、日本軍を迎撃することを決断しました。一月二十八日、両軍の交戦が開始されました(第一次上海事変、淞滬抗戦)。以後、三十日以上にわたりり、蒋、蔡は懸命に抗戦したましが、最後は兵力・火力で勝る日本軍の前に撤退しました。しかし、このときのたたかいぶりは中国国内から賞賛を受けました。

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