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2013.06.17

「生活保護法の改悪に反対する研究者の緊急共同声明」運動に寄せて

 6月14日、「生活保護法の改悪に反対する研究者の緊急共同声明」へ賛同呼びかけの運動が始まりました。生活保護からの社会的排除を推しすすめる「生活保護法の改悪」に反対しようという趣旨です。このリポートは、「声明」の動きを紹介しながら、生活保護法の改悪問題についてのべていきます。

 「生活保護法の改悪に反対する研究者の緊急共同声明」の内容

 生活保護法改悪案は、6月4日、衆議院本会議で、自民党、公明党、民主党、日本維新の会、みんなの党、生活の党の賛成多数で可決、参議院に送りました。

 こうしたもとで「声明」への賛同呼びかけ運動が始まりました。その呼びかけ人は、つぎのような研究者です。

 井上英夫(金沢大学名誉教授、社会保障法)

 木下秀雄(大阪市立大学、社会保障法)

 後藤道夫(都留文科大学名誉教授、社会哲学・現代社会論)

 笹沼弘志(静岡大学、憲法学)

 三輪 隆(埼玉大学、憲法学)

 村田尚紀(関西大学、憲法学)

 森 英樹(名古屋大学名誉教授、憲法学)〉

 「声明」は、つぎのようにのべています。

 〈いま国会で審議されている生活保護法改正案は、不正受給を防ぐためと称して

 ①生活保護申請時に資産・収入方法についての書類提出などを義務づけると共に、

 ②親族の扶助義務を事実上生活保護の要件としている。

 これは自由で民主的な社会の基盤であるセーフティーネットとしての生活保護を脅かすものであって、私たちはけっして許すことはできない。(中略)

 そもそも、このようは書類の提出は申請の後で済むことであり、裁判判例も申請は口頭でよいことを認めている。ギリギリの生活を迫られている人たちには、国連社会権規約委員会も勧告しているように、保護申請すること自体を容易にすることこそが切実に求められているのである。

 また、(中略)親族関係は多様である。夫への通知・調査を怖れるDV被害者だけでなく、親族に「迷惑がかかる」ことから申請をためらう人は現在でも少なくない。家族・親族に厳しく「共助」を求めることは国の責任転嫁に他ならない。(中略)

 さらにまた、今度の改正案は、③ジェネリック医薬品の使用義務づけ、保護受給者の生活上の責務、保護金品からの不正受給徴収金の徴収を定めている。保護受給と引き換えに生活困窮者にこのような責務を課すことは、性悪説を前提に保護受給者を貶め、その尊厳を傷つけるものである。

 以上、この改正案は全体として生活保護を権利ではなく「恩恵」「施し」とし、生活困窮者に恥と屈辱感を与え、劣等者の刻印を押し、社会的に分断排除するものということができる。

 生活困窮者は少数であり、常に声を上げにくい当事者である。しかし、セーフティーネットは、競争からこぼれ落ちた人々を救うためだけの制度ではない。それは自由な社会のなかで生きる人々が、様々なリスクを抱えつつも、幸福に暮らすことを安心して自由に追求できるための必須の条件である。セーフティーネットを切り縮めることは、自由で民主的な社会の基盤を掘り崩すものといわざるを得ない。これは生活困窮者だけの問題ではなく総ての人々の生存権に対する深刻な攻撃である。

 (中略)政府はすでに、生活保護費の生活扶助をこの8月から3段階で約670億円引き下げることとし、今年度予算もこれを前提として成立している。参議院では予算に「合わせて」法案を審議するといった逆立ちをすることなく、上に指摘した問題点を解消するよう、慎重審議することを求めるものである。〉

 生活保護利用者の実態はどうでしょうか

 この問題を考えるうえで、まず、生活保護利用者の実態を見ておくことにします。

 全日本民主医療機関連合会(全日本民医連)が5月9日、加盟事業所の患者で生活保護利用者の生活実態調査結果を公表しています(しんぶん赤旗、5月10日付)。調査は2~3月に実施。職員による直接の聞き取り調査に応じたのは、43都道府県の1482人。医療機関の調査のため回答者は、病気になりやすい50~70代が約6割を占め、男性の55%、女性の70%が60歳以上の単身者でした。

 生活保護利用の理由のトップは病気で約6割。そのうち7割は病気による失業です。

 93%が「支出をきりつめている」と回答。18歳以下の子どものいる54世帯の76%が、子どもにかかわる支出もきりつめているとしています。

 食事は3人に1人が1日2回以下に抑え、18歳以下の子どもも2回以下が17%という状況です。「妻は1食。高齢の夫は3食。2人が3食とるとやっていけない」「弁当のおかずを2回に分けて」(70代単身)などの記述も。1日の食費は千円未満が46%。子どものいる世帯でも7割が月5万円未満(総務省統計の2人世帯の食料支出平均5・8万円)でした。

 入浴回数は、水光熱費の節約で週2回以下が47%。1年間の被服・履物の購入回数ではゼロが13%、64%が2回以下。金額も49%が5千円以下でした。

 地域とのかかわりでは、74%が地域の行事に「まったく参加しない」と答え、交際費は町内会費を含め月千円以下が50%。冠婚葬祭に「全く参加しない」も51%。教養・娯楽費では32%が「0円」と答えました。

 生活・就労支援などでの自治体の体制では、担当者が毎月訪問しているのは26%、「これまで訪問なし」が17%、2年に1回が14%など支援の貧弱さが明らかになりました。

 生活保護の不正受給の問題、生活保護の捕捉率の低さについても、ここでふれておきます。

 日本共産党の志位和夫委員長は、衆議院厚生労働委員会で生活保護法改悪案の可決が強行された5月31日、衆院議員面会所での抗議行動での発言で生活保護の捕捉率の問題ついてに、つぎのように語っています(しんぶん赤旗、6月1日付)

 〈政府や自民党は、不正受給の存在を制度改悪の口実にしていますが、政府の統計でも生活保護の不正受給(額)は全体の0・5%にすぎません。

 しかも不正受給といわれている人々のなかでも、たとえば子どもさんが高校生になってアルバイトを始めた、その届け出をうっかりやっていなかった、そういう本当のミスも少なくなく、悪質なものはごく少数にすぎません。

 それを、あたかも全体が不当なことをやっているかのようなバッシングをやって、受給権を奪う。国民の間に分断を持ち込み、互いにたたき合わせて、その権利を奪うというやり方は本当に許すわけにいかない。そうした卑劣な罠(わな)を断固として拒否しようではありませんか。〉

 ここで大事なのは、99・5%は適正に執行されているということです。

 〈日本の生活保護で早急に解決が迫られているのは、収入が最低生活費未満の人が生活保護を受けていない―捕捉率があまりに低いという問題です。捕捉率は日本では2割程度しかありません。ドイツの6割、イギリスの5~6割、フランスの9割と比較して、2割というのはまったく異常な実態というほかありません。〉

 この捕捉率の低さという問題をこそ解決すべきだと思います。

 

 安倍内閣のもとでの生活保護の大改悪

 安倍政権は発足以来、生活保護の改悪を進めています。

 2013年度予算で手をつけたのは、生活保護受給者の食費・光熱費などにあてられる生活扶助費の削減の強行です。

3年かけて総額740億円の生活扶助費を削減する計画が、今年8月から始まります。9割以上の受給世帯が収入減に追い込まれ、月2万円以上も減らされる子育て世帯も生まれます。そのうえ受給者数を強引に減らすなどして年450億円も生活保護費をカットする施策も盛り込んでいます。

 続いて安倍政権が持ち出したのが改悪法案です。

行政に助けを求めてきた人たちを窓口で追い返す仕組みを初めて条文化する内容です。現行法は本人や家族らが口頭で申請することも認めているのに、改悪案は預金通帳などの書類提出を必須としたのです。住まいのない人や、配偶者からの暴力から逃げて着の身着のままで助けを求めてきた被害者の申請を事実上不可能にするものです。

 法案が、親族による扶養義務の強化を明記したことも受給者を排除する狙いです。保護を申請した人の親族らの収入や資産を調べるため、税務署や銀行、場合によっては勤務先にまで報告を求めることができる権限を与えました。親族の身辺を洗いざらい調査されることを避けるために、保護申請をあきらめる人が続発する事態をもたらしかねません。

 いま、どういう事態が起きているか例をあげます。

 札幌市白石区で知的障害のある妹=当時(40)=と暮らす姉=同(42)=が亡くなった事件では、区が3回も相談を受け、面接記録の記述でも非常に切迫した状態に置かれていた事実をつかみながら「申請意思を示さなかった」などとして生活保護申請を受け付けませんでした。

 姉はその後、昨年12月から今年1月の間に病死し、残された妹は1月上旬から中旬の間に凍死したとみられます。発見されたのは1月20日で電気やガスが止められていました。

 政府は生活保護受給者の親族にたいし扶養義務を強化しようとしていますが、茨城県水戸市で、その先取りともいえるようなことがおこなわれました(しんぶん赤旗、5月16日付、「生活保護 受給者の娘宅を職員が突然訪問 親への援助迫られたが… 水戸」)、問題になっています。

 4月中旬のことです。同市内の店舗兼自宅に夫の両親と同居するA子さん(34)は、1階の店にいた義母に呼ばれ、降りて行ったら水戸市役所から来たという男の人が2人いて実家が生活保護を受給しているのを知っているか尋ねられました。知っていると答えると「いくらかでも支援できますか」と援助を求められました。

 「『自分も生活が苦しくできません』と答えました。すると1人の職員が『ハハッ』と笑って。ばかにされたような気がしました。私が働いているか聞かれ、パートに出ていると答えると『そういうふうに申請しておくね』といって帰りました」とA子さん。

 実家の父親(68)は十数年働いた会社を定年退職しましたが、年金がありませんでした。再就職できず生活保護を受給しました。がんで手術を繰り返し療養しています。母親も持病があり通院しています。

 A子さんはこれまで、実家が生活保護を受給していることを夫や義父母に伝えていませんでした。「夫は理解してくれたけど、義父母がどう思うか分からない。親同士の付き合いが上手くいかなくなるかもしれないし、そうなったら夫婦の間だって…」と語ります。

 水戸市の生活保護世帯は約3900世帯。2008年のリーマン・ショック以降、急増しました。同市は「少しでも(保護費の)支出を減らしたい」(生活福祉課)と、昨年度から警察官OBを含む嘱託職員2人を雇い、市内に居住する扶養義務者の台帳をつくって実地調査(訪問)し、仕送りができないか、ただしています。同課によると4月下旬までに159世帯を訪問したと言います。

 A子さんの父親宅に担当ケースワーカーと職員2人が訪ねてきたのは昨年末。父親に親族の連絡先を教えるよう求めました。父親は二男と兄の連絡先を教えましたが、A子さんのことは「言わなかったし、聞かれもしなかった」と言います。「話にも出ていない娘の嫁ぎ先にまでなぜ市は訪ねて行ったのか」。 

 生活福祉課は「(扶養義務者を)訪問していいか、必ず被保護世帯の了解をとるようにしている」としています。しかし実際には了解なしの訪問でした。父親の訴えを聞いた日本共産党の中庭次男水戸市議の指摘を受け、同課は4月下旬、A子さんの父親に謝罪しました。

 「セーフティーネットとしての生活保護を脅かす」

 「声明」が指摘するように、この改悪案は「自由で民主的な社会の基盤であるセーフティーネットとしての生活保護を脅かすもの」です。 そのことは5月29日の衆議院厚生労働委員会での日本共産党・高橋ちづ子議員の質問でもうきぼりになっています(しんぶん赤旗、5月30日付の「論戦ハイライト」)

 高橋氏は日本国憲法25条(生存権)にもとづいた生活保護法の基本理念は変わっていないのかと確認。田村憲久厚労相は「憲法の権利を具現化するセーフティーネットが生活保護制度。根幹は何も変えていない」と答弁しました。

 誰にでも受ける権利はある(無差別平等)、個々の事情を顧みず機械的な対応をしない(必要即応)―という生活保護の大原則についても、桝屋敬悟厚労副大臣は「何ら変わらない」と答弁しました。

 ところが法案では、これまで生存権を守る立場から口頭でも申請を受け付けていたのを、申請書や内容を証明する書類の提出を義務付けます。高橋氏は、今でも申請にまでたどりつける割合は49・7%(2011年)と半数以下だと指摘。日本弁護士連合会も「水際作戦を合法化させる」と批判していることを挙げ、義務付けをやめるべきだと求めました。

 〈高橋 書類がそろわないと保護は受け付けないのか。

 村木厚子社会・援護局長 実際の運用を変えることは一切ない。そろわないと受け付けないものではない。

 高橋 変わらないのなら、書かなければいい。法律に書いたわけだから義務になる。〉

 高橋氏は、福岡県北九州市の餓死事件では申請を締め付ける「水際作戦」が判決(2009年)で断罪されたことを指摘。申請したくても半分以上が書類にさえたどりつけない実態を挙げ、「水際作戦の合法化ではないか」と追及すると、田村厚労相は「それは不適当な対応だ」と答えざるをえませんでした。

 改定案は、親兄弟などが扶養義務を履行していない場合は、扶養義務があることを通知したり、「報告を求めることができる」ことなどを盛り込んでいます。

 村木局長は、「必ず扶養できる人に限っておこなうものだ」とし、収入などの調査についても、「本人同意がない場合は適当でない」と答えました。

 〈高橋 現場ではかなりのことがやられている。大学に通う19歳の学生に姉の扶養義務の照会がきた事例もある。家族の絆、親族の関係もみんな壊れる。

 村木 家族の問題に行政が踏み込んでいくのは相当慎重にしなければならない。

 高橋 国会で取り上げられてから、申請をためらうケースが増えるなど、すでに「アナウンス効果」が抜群に発揮されている。〉

 高橋氏は、札幌市の女性がニュースを見て「簡単には受給できないだろう」と考えて母親と心中を図った例を紹介、申請の締め付けになるとただしました。

 田村厚労相は、「心配の点は各自治体に通知し、ご懸念のない形ですすめる」と答弁。高橋氏は、国内の餓死者(栄養失調と食糧不足による死者の合計)が2000年の1314人から1311年の1746人に増加していると指摘し、「これほどの経済大国・日本で餓死者がこれだけいるということは非常に重大だ」と強調しました。

 また、いわゆる「不正受給」は生活保護受給額全体の0・5%にすぎず、申告漏れなど悪意のないものがほとんどだと指摘。「生活保護申請の却下との関連も含めて調査し、こうしたことが起こらないようにすべきだ。保護のハードルを下げてまず命を守る姿勢に転換すべきだ」と主張しました。

 いまこそ世論と運動広げて

 では、この生活保護への分断の攻撃をどうはねかえすか。

 ・政府はこの間、生活保護の受給者を攻撃するバッシングや、高齢者と現役世代の「世代間格差」を言いたてるキャンペーンを展開し、国民同士を「たたきあう」ように仕向ける分断攻撃をすすめながら、制度改悪を強行しようとしています。この点に注目し、生活保護者分断の攻撃も国民の権利を奪い、後退させる攻撃ととらえ、国民各層の社会的な連帯の力で打ち破るために努力すべきではないでしょうか。

その点でも研究者たちの動きは注目されます。

 ・生活保護を適切に受けることができるようにするという方向でキャンペーンをはっていく必要があると思っています。論争のうえでは、①生活保護者の生活実態を明らかにし、②生活保護を受けることは日本国憲法25条(「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。/ 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」)、生活保護法(「第二条  すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護(以下「保護」という。)を、無差別平等に受けることができる。」 とうたわれているまっとうな権利なのだということを押し出していく、③その権利を圧迫しようとする安倍内閣の非道ぶりをついていく必要があります。

 ・今年5月、国連社会権規約委員会から日本政府に出された「総括所見」は「恥辱のために生活保護の申請が抑制されている」ことに「懸念」を表明し、「生活保護の申請を簡素化」し「申請者が尊厳をもって扱われることを確保するための措置をとる」こと、「生活保護につきまとう恥辱を解消する」手だてをとることを勧告しています。社会権規約を批准している日本には勧告にもとづき事態を改善する義務があるのに、改悪案は国連勧告に真っ向から逆らうものであることも大事な押し出し点だと思います。

 ・なお、餓死をなくすための一方策として、電気、ガスなど民間も含めライフライン業者から料金滞納者の行政への通報体制の構築や、滞納があってもすぐには供給停止にしないルールづくりが必要だと思っています。

 【参考】

「生活保護法の改悪に反対する研究者の緊急共同声明」への呼びかけ
http://e-kenpou.blogspot.jp/2013/06/blog-post.html


生活保護法の改悪に反対する研究者の緊急共同声明の取りまとめ・連絡先
takm@mail.saitama-u.ac.jp

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コメント

藤原さん、リハビリを十分頑張って、くれぐれもご自愛下さい。

あと、戦跡ネットのメンバーで、「四国の戦争遺跡」(仮)の本を出しませんか?前から福井さんとも話していましたが、実現していません。是非、叶えたいです。

投稿: 池田 | 2013.06.18 17:39

100人の研究者の方々が賛同と聞き、元気もらいました。

投稿: 佐々木(京都山科生健会) | 2013.06.19 00:58

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