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2013.07.25

連載 四十八 タイムマシンで「生ける銃架」の十九歳に会い行く 反戦詩人・槇村浩の誕生。【陸軍歩兵四十四連隊への反戦ビラ配布を詩でうたいます。】

 槇村は、ひきつづき、反戦詩「一九三二・二・二六 ――白テロに斃された××聯隊の革命的兵士に――」を書きます。
 陸軍歩兵四十四連隊への反戦ビラ配布をテーマにしていました。

  營舎(えいしゃ)の高窓(たかまど)ががた/\と搖(ゆ)れる
 ばつたのように塀(へい)の下(した)にくつゝいてゐる俺達(おれたち)の上(うへ)を
 風(かぜ)は横(よこ)なぐりに吹(ふ)き、
 芝草(しばくさ)は頬(ほゝ)を、背筋(せすぢ)を、針(はり)のやうに刺(さ)す

 兵營(へいえい)の窓(まど)に往(ゆ)き來(き)する黒(くろ)い影(かげ)と
 時(とき)どき營庭(えいてい)の燈(ひ)に反射(はんしや)する銃劍(じうけん)を見詰(みつ)めながら
 おれは思(おも)ふ、斃(たふ)されたふたりの同志(どうし)を

 同志(どうし)よ
 おれは君(きみ)を知(し)らない
 君(きみ)の經歴(けいれき)も、兵營(へいえい)へもぐり込(こ)んで君(きみ)が何(なに)をしたかも

 兵營(へいえい)の高塀(たかべい)と歩哨(ほせう)の銃劍(じうけん)とはお互(たがひ)の連絡(れんらく)を斷(た)つてしまつた
 おれは君(きみ)たちが
 おれが君(きみ)たちを探(さが)したように、あせりあせり熱心(ねつしん)に俺達(おれたち)に手(て)を差(さ)し出(だ)したのを知(し)つてゐる
 おれと君(きみ)とは塀(へい)を隔(へだ)てゝめくら探(さが)しにお互(たが)いを求(もと)め合(あ)ひ
 おれの手(て)と君(きみ)の手(て)は
 すれ/\になったまゝ塀(へい)の間(あいだ)で行(ゆ)き違(ちが)つたのだ

 おれは想像(さうぞう)する
 破(やぶ)れたストーヴについて、不自由(ふじいう)な外出(ぐわいしゆつ)について、封(ふう)を切(き)られた手紙(てがみ)について、不親切(ふしんせつ)な軍醫(ぐんい)について、横(よこ)つ面(つら)ヘ竹刀(しない)を飛(と)ばす班長(はんちやう)について、夜中(よなか)にみんな叩(たゝ)き起(おこ)す警報(けいほう)について、無意味(むいみ)な教練(けうれん)のやり直(なほ)しについて
 君(きみ)らがいかに行働(かうどう)を以(もつ)て同(おな)じ兵卒(へいそつ)をアジつたかを
 そして
 誰(たれ)が戰争(せんさう)で儲(まう)け、誰(たれ)が何(なん)の恨(うら)みもない俺達(おれたち)に殺(ころ)し合(あ)ひをさせるか、誰(たれ)が死(し)を賭(と)して俺達(おれたち)のために闘(たゝか)ひ、何(なに)が俺達(おれたち)を解放(かいほう)するかを
くたくたに疲(つか)れた演習(えんしふ)の歸(かえ)りに
 半煮(はんに)えの飯(めし)をかきこむ食事(しよくじ)の合(あ)ひ間(ま)に
 みなが不平(ふへい)をぶちまけ合(あ)ふ寢臺(しんだい)の上(うへ)で
 いかに君(きみ)らが全兵卒(ぜんへいそつ)の胸(むね)の奥(おく)に沁(し)み込(こ)ませたかを

 その日(ひ)
 (忘(わす)れるな、二月(ぐわつ)二十六日(にち)!
 君(きみ)たちは順々(じゆん/\)に呼(よ)び出(だ)され
 後(うしろ)から欺(だま)し討(う)ちに×[切]り倒(たふ)された
 君(きみ)たちの血(ち)はべっとりと廊下(らうか)を染(そ)め
 君(きみ)たちの唇(くちびる)は最後(さいご)まで反戰(はんせん)を叫(さけ)び續(つゝ゛)けた

 よし
 たけり立つて兵士らを宥(なだ)めかねてやつらのひとりが
 自殺(じさつ)せうと、よし
 泥のやうに醉(よ)つ拂(はら)はせた兵士(へいし)らを御用船(ごようせん)へ積(つ)み込(こ)んで送(おく)り出(だ)さうと
 廊下(らうか)に沁(し)み込(こ)んだ君(きみ)たちの血(ち)は
 それで拭(ぬぐ)はれたか
 溢(あふ)れ出(で)る血(ち)どろと共(とも)に口(くち)を衝(つ)いて迸(ほとば)しった
 君(きみ)たちの叫(さけ)びは
 それで消(け)されたか

 おゝ今(いま)
 消燈喇叭(せうとうらつぱ)は夜風(よかぜ)を衝(つ)いて響(ひゞ)き渡(わた)り
 窓(まど)はひとつひとつ闇(やみ)に溶(と)けて行(ゆ)く
 おれは伸(の)び上(あが)り
 かじかんだ手(て)を舉(あ)げて仲間(なかま)に合圖(あいづ)をする
 そして
 俺達(おれたち)は立上(たちあが)りマントを捨(す)て
 すばやく塀(へい)を乗(の)り越(こ)えて突進(とつしん)する

 掩達(おれたち)の手(て)にはビラがあり
 俺達(おれたち)のポケットにはドスがある
 ビラは眠(ねむ)つた營舎(えいしや)を搖(ゆ)り覺(さ)まし
 ドスは倒(たふ)された同志(どうし)の血(ち)を洗(あら)ふだらう
 風(かぜ)よ
 兵營(へいえい)の隅々(すみ/\)までこのビラを蒔(ま)き散(ち)らせ!
塀(へい)よ
 「兵士委員会(へいしゐゐんくわい)を作(つく)れ!」
 の叫(さけ)びを營庭(えいてい)一ぱいに跳(は)ね返(かえ)せ!

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