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2013.07.25

連載 五十三 タイムマシンで「生ける銃架」の十九歳に会い行く 反戦詩人・槇村浩の誕生。【高知刑務所の獄中での誌友・毛利猛夫との交流。】

 槇村は、獄中でも詩の勉強をします(毛利猛夫「詩を読んだ仲間としての槇村浩」=太平洋文学会『太平洋文学 五十二号』)。
 槇村に好意を寄せた図書係の独歩許可の雑役夫の仲介で槇村と毛利猛夫は図書や文書の交換が可能でした。
 毛利は槇村に「一部分でも暗記している詩について書いてよこせ」と注文しました。 
 その注文にこたえて槇村は五、六編の詩を書きました。
 そのなかには上田敏の訳した「放羊神」、厨川白村(くりやがわはくそん) の訳したエドガー・アラン・ポー(アメリカ合衆国。一八〇九年一月十九日~一八四九年十月七日)の「ヘレン」、永井荷風の訳したシャアル・ボオドレエル(フランス。一八二一年~一八六七年)の「死のよろこび」、でした。
 槇村は、官本のなかから、柳田泉の『東洋古典物語』を見つけて、雑役夫の仲介で毛利に「僕の好きな曹士建(曹植)のものをみつけた」と、知らせました。

 「ヘレン」は、つぎのような詩でした。

 うるわしきヘレンのきみは
 似たるかないにしえのニケの小舟に
 しづけくもうまし薫りの浪路をはるか
 つかれやつれし旅人のせて
 故郷の浜辺へと向かう
 ………

 「死のよろこび」(永井荷風訳。訳詩集『珊瑚集』。一九一三年)はつぎのものです。

 蝸牛[かたつむり]匍[は]ひまはる泥土(ぬかるみ)に、
 われ手づからに底知れぬ穴を掘らん。
 安らかにやがてわれ老いさらばひし骨を埋め、
 水底に鱶[ふか]の沈む如[ごとく]忘却の淵に眠るべし。

 われ遺書を憎み墳墓をにくむ。
 死して徒[いたづら]に人の涙を請わんより、
 生きながらにして吾寧[むし]ろ鴉[カラス]をまねぎ、
 汚れたる脊髄の端々をついばましめん。

 ああ蛆蟲[うじむし]よ、眼なく耳なき暗黒の友、
 汝が為めに腐敗の子、放蕩の哲学者、
 よろこべる無頼の死人は来れり。

 われ亡骸[なきがら]にためらふ事なく食入りて、
 死の中に死し、魂失せし古びし肉に、
 蛆虫よ、われに問え。猶(なお)も悩みのありやなしやと。

 曹植(そうしょく、そうち)は、中国後漢末から三国時代の詩人です。槽稙は「野田黄雀行」という詩もつくっています。

 高樹多悲風 (高い木々には悲しい風が吹きすさび)
 海水揚其波 (海原は荒波を打ち上げる)
 利剣不在掌 (剣を持たぬ心細い私は)
 結友何須多 (友を作るにもびくびくしている)
 不見籬間雀 (垣根にいる雀を見たかい)
 見鷂自投羅 (鷹の姿に驚いて網に飛び込んでしまったじゃないか)
 羅家得雀喜 (猟師は雀が捕まって喜ぶだろうが)
 少年見雀悲 (私はそんな雀を見て悲しくなった)
 抜剣哨羅網 (剣を抜いて網を切り裂いてやると)
 黄雀得飛飛 (黄色い雀は空へ飛んでいった)
 飛飛摩蒼天 (青空の彼方まで飛び上がり)
 来下謝少年 (再び私の元へ降りてきて礼を言った)

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